おじさんリーマンが不安がる
銀行大リストラのニュース
先週、あるニュースに世の中がザワザワした。
「3銀行大リストラ時代 3.2万人分業務削減へ」(日本経済新聞電子版2017年10月28日)
ご存じの方も多いと思うが、みずほフィナンシャルグループが事務作業の無駄を省くことで、2021年度に8000人分、26年度までに1万9000人分の業務量を削減すると発表した。そこに加えて、三菱UFJフィナンシャル・グループでもデジタル技術を活用して23年度までに9500人分、三井住友フィナンシャルグループも20年度までに4000人分の業務量削減ということで、3メガですべてひっくるめて「3万2000人」の業務量削減がなされるというわけだ。
おじさんサラリーマンの味方、夕刊フジが『「AIに仕事奪われる」が現実に』『バブル組は希望退職標的の恐れも』(10月31日)と火に油を注いでいることからもわかるように、働く者とって、「リストラ」という響きほど心がザワザワするものはない。
実際にこのニュースを受けて巷では、「かつては一生安泰の象徴だった銀行員もいよいよ受難の時代到来か」とか、「低金利とフィンテックで銀行も古い体質を改めざるを得なくなったんだな」なんて調子で、さまざまな声があふれているようだ。
ただ、そういうムードに水を差すつもりはサラサラないのだが、個人的はこのニュースに対して「えぇ!」という驚きもなければ、「時代の転換点が訪れたな」とか考えさせられることもない。ぶっちゃけ、ピンとこない。
なぜかというと、「強烈な既視感」があるからだ。
16年前にも瓜二つの記事が!
銀行はなぜ同じことを繰り返すのか
実は今からちょうど16年前、「日本経済新聞」に以下のような見出しの記事がドーンと出て、やはり世の中をザワザワさせている。
「4大銀グループ 2万3000人削減 みずほ7000人 三菱東京4500人 業績下方修正で上積み」(日本経済新聞2001年11月24日)
当時はまだUFJグループがあったので「4大銀行」という違いはあれど、「2万3000人」という、先日の記事の「3万2000人」と数字を入れ替えただけの削減目標といい、業績不振から背に腹を代えられなくなって大規模リストラに乗り出すという「ストーリー」も同じ、今後は店舗統廃合や新卒採用の抑制も進めいていきますよというメッセージも同じ。基本的には「リバイバル」と言っても差し支えないほど瓜二つなのだ。
なぜこんなことになったのか?前回の「大リストラ」時代は、待ったなしの金融危機にさらされていたため、銀行は必死になって「2万3000人削減」に取り組んだ。そして07年頃に達成できたものの、その後、喉元過ぎればなんとやらで職員数はじわじわ増えて、今や01年の水準に戻る勢いなのだ。
今回の「3万2000万人削減」も同じ結末をたどるかもしれない。つまり、20年以降は何千人分の業務削減効果が出ました、という華々しいプレスリリースなんかが出ることがあっても、しばらくすると、「私たち、リストラなんかやってましたっけ?」なんて感じで、シレッとした顔で組織を肥大化させて、さらに深刻な「危機」を招く恐れがあるのだ。
「金融ビッグバン」で大騒ぎするも
個人預金は逆に増加した過去
いやいや、いくら報道のトーンが似通っているからといって、16年前と今では銀行が置かれている環境が大きく変わっているわけだから、その意味するところはまったく違うぞという声が聞こえてきそうだ。たしかに、01年の銀行と、16年を経た現在の銀行で、業務内容は大きく変わっている。
数え切れないほど多種多様な金融商品を扱うようになったし、ネットバンキングも始まった。01年のバンカーが現代にタイムスリップしたらさぞ驚くことだろう。
しかし、銀行の基本的な考え方やカルチャーはなにも変わっていない。
窓口でなにかを頼むと、スマホで買い物やクレジットカード決済ができる時代に、紙の書類にああだこうだと記入を促され、時には「ハンコがないとできません」となる。営業時間を延ばして24時間営業が当たり前になったファミレスやコンビニが、1周まわって営業時間を短縮させようかという議論になっているこの時代、頑なに「窓口業務は3時まででございます」という不文律を守り続け、シャッターを降ろしている。
三菱UFJ銀行の三毛兼承頭取が、「伝統的な商業銀行モデルはもはや構造不況化している」(日本経済新聞電子版2017年10月28日)とおっしゃっているように、社会がものすごいスピードで変わっている中でも、「伝統的なビジネスモデル」を脈々と受け継いできたのが、銀行という特殊な「ムラ社会」なのだ。
16年前と同じ思想を持つ人たちが、16年前と同じようにリストラを断行しても、16年前と同じような結末をたどるというのは当然の話ではないだろうか。
なんてことを言うと、「そういう時代もあったかもしれないが、いまは深刻度が違う!変わらなくてはメガバンクは生きていけないんだ!」と熱弁される方も多いかもしれないが、実は「2万3000人削減」を掲げてリストラをおこなった01年当時も、そう熱弁していた人たちが大勢いた。
覚えている方も多いと思うが、ちょうどこの時期は、「日本版金融ビッグバン」なんて言葉があちこちで叫ばれ、日本の銀行はそれまでのやり方を変えざるを得ない大きな転換期だった。
「ビッグバン」の成果については、いろいろなご意見があるだろうから、この場でああだこうだと私見を述べることは差し控えるが、事実として個人金融資産のうち預金や現金の占める比率は「ビッグバン」がスタートした1996年度末に49.9%だったものが、2016年9月末は52.3%へと逆に増加。多様な金融商品を売って手数料ビジネスを拡大するという野望を持ち、「ビッグバン」とか騒いでいたのが恥ずかしくなるほどなにも変わっていないのだ。
フィンテックもビッグバンの二の舞!?
派手なスローガンに気をつけろ
これと同様に今、至るところで叫ばれている「フィンテックで銀行が変わる!」という言説も少し冷静に受け取った方がいい。景気のいいスローガンだけぶち上げて期待値を上げすぎてしまうと、その落差に、かえってガッカリ感が強くなってしまうからだ。
IT業界など異業種から転職してきた新しいタイプの銀行員たちが、メガバンクがこれまでは見向きもしなかったようなスタートアップ企業と組んで、「MUFGデジタルアクセラレータ」のような新しいチャレンジをしているというのは、まぎれもない事実だ。
ただ一方で、メガバンクのなかには「変わりたくない」「定年退職するまで、どうにか今のままで」という人たちもたくさんいる、というのもまた事実である。もちろん、これはどんな組織にもあることではある。ただ、「伝統的ビジネスモデル」がビタッと定着している「銀行」という組織に入ることを目指し、そこで何十年も生きてきた人たちなのだから、保守的な志向が際立って強いのは言うまでもないだろう。
こうした人たちは、まだまだ銀行内に大勢いる。彼らの意識を変えないままに、「金融ビッグバンを大リストラで生き残れ!」という勇ましい掛け声をかけて2万3000人もの人員を削減しても、時間が経てば、ダイエットのリバウンドさながら人員が増えたように、今回の3万2000人分の業務量削減も後々、残念な結果を招くのは目に見えている。
日本の銀行は放っておくと、身を切る改革を避け、現状維持へとなびいていくというのは歴史が証明している。大量の退職者を送り出し、一方で新卒採用の門戸を狭くすれば、今回の大リストラも数字だけはなんとか達成できるのかもしれない。しかし、行員たちの意識の変革は、そうたやすい話ではないはずだ。
「日本経済新聞」はそのあたりについて、ずっと苦言を呈してきたので、「大リストラ時代到来!」みたいな感じで煽って尻を叩きたい、というのは理解できる。
ただ、我々一般人まで、それを真に受けて大騒ぎをしていたら、銀行側としては「世の中も納得してくれたようだ」と安心して、変わるものも変わらない。
どのような改革に手をつけて、どのようなテクノロジーを導入したことで、どれくらいの業務量が削減できたのかという具体的な結果が出て、はじめて「銀行は変わった」と言えるのではないだろうか。
参照元:http://diamond.jp/articles/-/147934